町「はい四五十年お帰り遊ばされぬというのは其りゃどういう訳でございますか」
 文「深く問われては困る、義に依って行《ゆ》かなければならぬ処がある、辞返《ことばがえ》しをすることはなりませんよ」
 町「はい」
 とおど/\して見て居りますと、風呂敷包のなかから南蛮鍜《なんばんきた》えの鎖帷子《くさりかたびら》に筋金《すじがね》の入りたる鉢巻をして、藤四郎《とうしろう》吉光《よしみつ》の一刀に關《せき》の兼元《かねもと》の無銘摺《むめいす》り上げの差添《さしぞえ》を差し、合口《あいくち》を一本呑んで、まるで讐討《かたきうち》か戦争にでも出るようだから恟《びっく》りいたしまして、
 町「旦那さま、どういう御立腹のことがございますか存じませんが、お母《っか》さまも取る年、あなたのお身にひょんな[#「ひょんな」に傍点]ようなことでもございますれば、お母様《っかさま》はどのくらいお嘆きなさるか知れません、どうか私《わたくし》に面じてお許し下さいまし」
 文「あーれ、それだから困る、それだから辞《ことば》を返すことはならぬと申し聞けたではないか」
 町「お辞は返しません」
 文「そんなら宜しい」
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