、お母《っか》さまの御機嫌を取り、御介抱を致しますのは私《わたくし》の役でございまするで、決して粗略には致しません」
 文「はい、私《わし》は性質癇癖持ちで、詰らぬことに怒りを生じて打ち打擲することがある、弱い女や子供を打擲することは嫌いだが、意に逆らうと癇癖に障ります、決して逆らってくれまい」
 町「どう致しまして、お辞《ことば》は背きません」
 文「それは辱《かたじ》けない、それでは申し聞けるが、文治郎今晩これから直ぐに出て行《ゆ》きます、今晩はお前が嫁に来たばかりだから留《とゞま》りたいが、出て行《ゆ》かなければならぬ、私《わし》が出て往った後《あと》で、お母様《っかさま》がお目が覚めて文治郎はとお問い遊ばした時、文治郎は能く眠り付いて居ります、御用なれば私《わたくし》へ仰せ聞けられて下さいと云って、お前が引受けてくれぬでは困る」
 町「何処《どこ》へお出《いで》になります、何時《いつ》お帰りになります」
 文「帰りは明方《あけがた》でございます、若し是非ない訳で帰れんければ四五十年は帰れぬ、たった一人の大切のお母様《っかさま》、私《わし》になり代って孝行を尽してくれぬでは困る」
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