喜代之助が親里なり媒妁なり致して、ほんの内輪だけでございまして、國藏夫婦が連なり、森松も末席に坐り、目出度《めでたく》三三九度の盃も済み、藤原が「四海|浪《なみ》しずかに」と謡《うた》い、媒妁は霄《よい》の中《うち》と帰りました。母も悦び、大いに酒を過《すご》して寝ます。夏のことでございますから八畳の間へ一杯に蚊帳《かや》を釣りまして夫婦の寝る処がちゃんと極《きま》って居ります。娘お町は思掛《おもいがけ》ないことで、飯炊きの奉公に来ようと云ったのが嫁となり、世に類《たぐ》いなき文治郎のような夫を持つのは冥加《みょうが》に余ったことと嬉しいが一杯で、側へも寄ることが出来ず、行燈《あんどう》の側に蚊に食われるのも知らず小さくなって居ります。文治郎は蚊帳の中に風呂敷包を持って来ました。
文「お町/\」
町「はい」
文「此処《こゝ》へおいでなさい、其処《そこ》にいると蚊がさしていかない、なか/\蚊の多い処だから蚊を能く逐《お》うて這入んなさい、少しお前に話す事がある」
お町は嬉しゅうございますから飛立つ程に思いましたが、しとやかに扇《あお》いで、ずっと横に這入らぬと蚊が這入ります。これ
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