たそうだ」
 文「へー亡くなられましたか、町は嘸《さぞ》嘆いて居りましょう」
 母「可愛そうに、親類も身寄もない、他人へ奉公に往って逐出されても行《ゆ》く処がない、家《うち》へ御膳炊きに置いてくれというが、御膳炊きどころでない、どこへ出しても立派なお嬢さまだから貰いなさい」
 文「嫁はいけません、行《ゆ》く処がなければお側へ置いてお使い遊ばせ、御膳炊きにでもお使い遊ばせ」
 母「御膳炊きなどにはいけませんよ、お前がいやならお前を逐出しても貰いますよ」
 文「大層御意に入りましたな、暫《しばら》くお待ち下さい」
 と暫く考えて居りましたが、母が気をゆるさぬから大伴の道場へ斬込むことが出来ぬ、嫁を貰って母が安心して外へ出せば、彼等両人を殺害《せつがい》して仕舞う、婚礼の晩に大伴の道場へ斬込んで血の雨を降らせようという色気のない話で、嫁は親の仇を討ちたい一心で、此の家《や》に嫁に来るという似た者夫婦でございます。遂に六月廿八日の晩に婚礼を致しますというお話、鳥渡《ちょっと》一服息を吐《つ》きまして申上げます。

  十五

 扨《さて》文治郎とお町の婚礼は別に媒妁《なこうど》も親もない。藤原
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