らず逐出《おいだ》されたとき宿《やど》がございません、どうかお見捨なく御膳炊きにお置き遊ばして下さい」
 と只管《ひたすら》縋《すが》るのを見て母は気に入り、
 母「心配おしでない、逐出しゃしない、文治郎が気に入らないでも私が貰う」
 と云ったからこれは安心なもので。母は宅へ取って返し、
 母「文治郎、此処《こゝ》へ来な」
 文「お帰り遊ばせ、何か藤原で御馳走でも出ましたか」
 母「思掛《おもいがけ》なくお前の嫁が見付かりましたから婚礼をなさい」
 文「三十にして娶《めと》り、廿にして嫁《か》すということがございます、況《ま》して他人が這入りますとお母《っか》さまに不孝なことでも致すと、浪島の名を汚《けが》しますから、お母様《っかさま》のお見送りを致しましてから嫁を貰うことに願います」
 母「早く嫁を貰って安心させるのが孝行だよ、唯の嫁ではない、あんな嫁を持ちたいと云っても持てない」
 文「何者でございます」
 母「お前も知っている去年|金子《きんす》をやった小野の娘」
 文「へー庄左衞門の娘、彼《あれ》は一人娘で他《ほか》へ縁付けることは出来ますまい」
 母「いえ庄左衞門が亡くなられ
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