却《かえ》って大勢|居《お》ると目立って能くない」
竹「はい/\」
と竹次郎は帰って行《ゆ》きました。蟠龍軒は高い処へ上って向うから来るかと見下《みおろ》す、処が人の来る様子がございませんから、神田の方から人が来て認められては適《かな》わぬと思いまして、二番河岸の根笹《ねざさ》の処へ蹲《しゃが》んで居りますと、左官の亥太郎が来ました。これは強い人で、力が廿人力あって、不死身《ふじみ》で無鉄砲で。其の頃は腕力家の多い世の中でございます。亥太郎は牛込辺へ仕事に参りまして、今日は仕舞仕事で御馳走が出まして、どっちり酔って、風呂敷の中は鏝手《こて》を沢山入れて、首っ玉へ巻付けまして、此の人は年中柿色の衣服《きもの》ばかり着て居ります。今日も柿色の帷子を着てひょろり/\と歩いて参り、雨がポツリ/\顔に当るのが好《よ》い心持と見える、二番河岸の処へ来ますと丁度河岸の処に昼間は茶店が出て居ります、其処《そこ》へどしりと臀《しり》を掛けて、
亥「あゝいゝ心持だ、なんだ金太《きんた》の野郎が酒が強いから兄《あに》いもう一杯《いっぺい》やんねえと云った、いゝなア拳《けん》では負けねえが酒では負けるな
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