者の処へ往ってくれまいか」
忠「何処《どこ》でございます」
蟠「松倉町二丁目の葛西屋《かさいや》という蝋燭屋《ろうそくや》の裏に小野庄左衞門という者がある、其の娘を貰おうとした処が、私《わし》のことを馬鹿士とか何《なん》とか云ったが其の儘になって居《お》る」
忠「能く御辛抱でございましたねえ」
蟠「そこで仕返しをすると他《た》の人がやっても私《わし》のせいになるから、そんな小さい処へ取合わんで、時たってからと思って居った処が、去年の五月から今まで経《た》ったから丁度宜しい」
忠「へー、あの時お腹立になれば仮令《たとえ》他《ほか》でやっても貴方がしたと思いますが、それを今までお捨置《すておき》は恐入りますねえ、どう云う事になります」
蟠「貴公が医者の積《つも》りで往ってくれんではいかぬ」
忠「何処《どこ》へ」
蟠「浪人者が眼が悪い、三年越しの眼病で居《お》るから、秋田穗庵が薬をやって居《お》る、そこへ貴公が往って向うが内職に筆耕を書くから、親から譲られた書物を版本にしたいから筆耕を書いてくれというと、向《むこう》は目が悪いから、折角の頼みだが目が悪いから書けないという、私
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