うとしたが、關兼元の脇差は次の間へ置いて這入らなければなりませんが、若《も》し向うが多勢《たぜい》で乱暴を仕掛けられた時は、止《や》むを得ず腰の物を取らんければならぬ、其の時離れていては都合が悪い、それゆえ襖の蔭へ置きまして、余程|柄前《つかまえ》が此方《こっち》へ見えるようにして、若し向うで愈々《いよ/\》斬掛《きりか》けるようなる事があると、坐ったなりでずうっと下《さが》り、一刀を取って抜こうと云う真影流の坐り試合、油断をしませんで襖の所へ置いて掛合うという危険《けんのん》な掛合でございます。
 文「只今申上げました紀伊國屋友之助は図らずも御当家へお出入になりましたことは此度《こんど》始めて承わりましたが、不思議の縁で昨年来よりして手前|店請《たなうけ》になって駒形へ店を出させました廉《かど》もございましたが、久しく音信《いんしん》もございません、銀座へ越します時も頓《とん》と無沙汰で越しました、然《しか》る処、昨夜吾妻橋を通り掛りますると、友之助が吾妻橋の中央より身を投げようと致す様子、狂気の如く相成って居ります故、引留《ひきと》めて仔細を聞くと、御当家様へお出入になり、長らく御
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