安「へー、誠に好《い》い男で、どうも色の白いことは役者にもありません、眼の黒い眉の濃い綺麗な男で、水色の帷子を着て旗下の次三男と云う品《ひん》でげす」
 蟠「そんな事はどうでも宜い…蟠作、浪島とはなんだ」
 蟠作「兄上、予《かね》て聞きましたが浪島文治郎と云うは浪人者で、何か侠客《きょうかく》とか云う、町人を威《おど》し、友之助のことに世話をする奴で、友之助の事に就《つ》いて掛合に参ったのでございましょう」
 蟠「あゝそうか」
 崎「先生、それでございますよ、参ったら油断してはいけません、怖い奴です、見た処は虫も殺さぬような、しと/\ものを言うが、一つ反対返《でんぐりかえ》ると鬼を見たような奴です、お村を取還《とりかえ》しに来たって貴方はいと云っては親子のものが困りますから、どうかして下さいよ、お村逃げな/\」
 蟠「はアそれは面白い、酒の肴に嬲《なぶ》ってやろう、呼べ/\」
 と悪い所へ参りました。文治郎は案内に連れられまして奥へ通りますと、道場の次の座敷の彼《か》れこれ十畳もあります所へ、大いなる盃盤《はいばん》を置きまして、皆《みん》な稽古着に袴を着けまして酒宴をして居ります
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