関先へかゝり、
 文「頼む/\」
 大伴の表へは水を打って掃除も届き、奥には稽古を仕舞って大伴蟠龍軒兄弟が酒宴《さかもり》をしている。姑《しばら》くして「玄関に取次《とりつぎ》があるよ、安兵衞《やすべえ》」
 安「へー」
 つか/\と和田安兵衞が取次に出ました。と見ると文治郎水色に御定紋染《ごじょうもんぞめ》の帷子《かたびら》、献上博多の帯をしめ、蝋色鞘《ろいろざや》の脇差、其の頃|流行《はや》った柾《まさ》の下駄、晒《さらし》の手拭を持って、腰には金革《きんかわ》の胴乱を提《さ》げ、玄関に立った姿は誰《たれ》が見ても千石以上取る旗下《はたもと》の次男、品《ひん》と云い愛敬と云い、気高《けだか》いから取次の安兵衞は驚いて頭を下げ、
 安「何方様《どなたさま》から」
 文「手前は業平村に居ります浪島文治郎と申しますえー粗忽《そこつ》の浪士でござるが、先生にお目通りを願いたく態々《わざ/\》出ました」
 安「少々お控え下さい」
 とつか/\奥へ行《ゆ》くと、頻《しき》りに酒を飲んでいる。
 安「先生、浪島文治郎という業平村に居ります者が先生にお目通り願いたいと申します」
 蟠「どんな奴だ」
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