は知りませんが隣り屋敷の家来が塀へ上《のぼ》って見たら彼《あ》の男だと云う話ですが、非道《ひど》い奴ですなア」
文「女房を取られ、彼《あ》の倒《さかさま》になっているのは友之助ですか、ふゝん」
と怒りに堪えず二歩《ふたあし》三歩《みあし》行《ゆ》きに掛りますと、
母「あゝ文治郎お前はまア見相《けんそう》を変えて何処《どこ》へ行《ゆ》くのだえ」
文「へー/\……鳥渡《ちょっと》手水《ちょうず》を致そうと存じまして」
母「フーム、少し余熱《ほとぼり》が冷《さめ》ると直《すぐ》に持った病が出ます、二の腕の刺青《ほりもの》を忘れるな」
文「はい」
と母と一緒だからどうにも出来ません、仕方がないから其の儘見捨てゝ母と共に宅へ帰りました。これから母の教えが守り切れず、大伴の道場へ切込む達引《たてひき》のお話、一寸《ちょっと》一と息つきまして申し上げます。
十一
さて友之助が斯様《かよう》な酷《ひど》い目に逢うのは何《ど》う云う訳かと云うと、友之助はおむらに勧められて文治郎の近所にいるのは気詰りだから、他《た》へ越せ/\と云うので、銀座三丁目へ引越《ひきこ》したのは二月の二十
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