んだのだと云うことです」
 「なアに借のある奴がしらばっくれて表を通る処を捕えたのだそうです」
 「なアに、そうじゃアない、出入の町人の女房を取られたのだとね、金を取られた上にあんな目に逢うのだとね」
 「そうじゃアない巾着切《きんちゃくき》りだと」
などと少しも分りません。処へ文治郎が通り掛りますと、向うから知って居《お》る者が参りまして、
 「旦那|今日《こんち》は」
 文「これは暫《しばら》く」
 「今日《こんち》は何方《どちら》へ」
 文「母と羅漢寺へ参詣に参りました…向うに人立ちのして居《お》るのは何《なん》です」
 「彼《あれ》はたしか旦那様御存じでございましょう、もと駒形にいて今は銀座に店を出している袋物屋だそうです、彼処《あすこ》へ出入中に金の抵当《かた》に女房を取られ、金を返しに行ったところが、金を取られ、女房は返えさず打ち打擲したそうです、口惜しいから悪態を云うと門弟が引出して、彼《あ》の通り打《ぶ》ったり溝《どぶ》の中へ突込《つきこ》んだりして、丸で豚を見たようです、太《ふて》い奴ですなア」
 文「何《なん》ですか、あの紀伊國屋の友之助ですか」
 「私《わたくし》
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