》いましたから此方《こっち》へ入っしゃい」
文「はい、能《よ》う御勘弁下され文治郎誠に有難く心得ます」
母「赦し難いやつなれども御両人に免じて赦すから此方へ来なさい、仕置を申付けるから」
 文「どの様なるお仕置でも遊ばして下さいまし、文治郎|聊《いさゝ》かもお怨《うら》みとは心得ません」
 母「手を出しなさい、二の腕を出しな」
 文「へい」
 と腕をまくって出すと母は文治郎の腕を確《しっ》かり押え、
 母「かやや、其処《そこ》に硯《すゞり》があるから朱墨《しゅずみ》を濃く磨《す》って下さい、そうして木綿針《もめんばり》の太いのを三十本ばかり持って来《き》な」
 喜「お母様何をなさる」
 母「仕置を致す」
 と云いながら文治郎の二の腕へ筆太《ふでぶと》に「母」と云う字を書きまして、針でズブ/\突き、刺青《ほりもの》を初めましたが、素人彫りで無闇に突きますから痛いの痛くないのって、
 母「さア、これで宜しい、私が父親《てゝおや》なれば疾《とく》に手打にして命はないのだから、手前の命は亡いものと心得ろ。これからは母の身体《からだ》だによって、若《も》し私の意見に背き、喧嘩をして身体へ傷を付け
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