ふみ》を読下《よみくだ》して膝へついた手がぶる/\と慄《ふる》えて居りました。
十
藤原喜代之助は女房おあさより文治に送った文《ふみ》を見詰めて居りましたが、真に口惜《くや》しかったと見えます。
文「何《なん》と書いてありますかな」
喜「何《なん》ともかとも重々面目次第もない、斯様《かよう》なる不埓《ふらち》な奴とも心得ず、三年|以来《このかた》連れ添って居《お》る手前へ対し、斯様などうも何《なん》とも申そうようござらぬ不人情な奴でござる、母へ食《しょく》を与えず、打ち打擲致したに相違ござらぬ、手前は兎角貧乏にかまけ留守がちゆえ、其の不孝も存じませんでした、手前の殺せん処を見抜いて天が殺したとは能く仰《おっし》ゃって下すった、成程これは天が捨て置きません、私《わたくし》に殺せませんから貴方様が天になり代り、一命を捨てゝも喜代之助を助けて下さると云う其の御親切は驚き入りました、あなたは天下の英雄だ、人の女房を手込めに殺すなどと云うことは他人には出来る訳のものでない、善《よ》く殺して下すった、忝《かたじけ》ない、宜しい手前是れから女房おあさが母に食を与えず、面部へ傷を付けたる
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