文「重々相済みません、一応|申聞《もうしき》けた上で存分になる心得でございます、御立腹ではございましょうが少々の間|彼方《あちら》へ、森松やお母様《っかさま》をお連れ申せ」
森「お母さん、旦那だって馬鹿でも気狂いでもねえから無闇に人を殺す気遣いはねえ、何か云訳があるんでしょうから鳥渡《ちょっと》此方《こっち》へおいでなせえ」
と無理無体に森松とおかやが手を把《と》って次の間へ連れて参ります。文治は左の手にあった小脇差を右の手に持替えて奥座敷へ入りますから、
森「旦那え/\」
文「なんだ、騒々しい」
森「癇癪《かんしゃく》を起しちゃアいけませんよ、彼奴《あいつ》が抜いたらホカと逃げてお仕舞いなせえ、何《なん》でも逃げるが勝だ、然《そ》うして向《むこう》の気が落著《おちつ》いた処で人を以《もっ》て話をすりゃア、とゞの詰りは金だ/\」
文「宜しい、黙っていろ」
と少しも騒がず藤原の前へ出まして、
文「嘸《さぞ》お待兼ね、只今逐一母から承りました処、重々の御立腹、なれども人様の御家内を手込みに殺すには段々の訳があっての事、貴方に於《おい》ても左様思召すでござろうが、たった一人
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