これへお呼び申せ」
 森「お母さん/\」
 文「もっと大きな声をして」
 森「お母さん/\これが帰りました」
 と親指を出して招くから、母は文治郎が帰ったなと思ってそれへまいり、
 母「能くのめ/\と私の前へ来た、只今帰ったと云います」
 文「飛んだ事がお耳に入って文治郎も申し訳がございません、藤原親子の為を思いまして、お母《っか》さまには不孝でございますが、文治郎命を捨てゝ悪婦の命を断ちました、決して逃げ隠れは致しません、一言《いちごん》藤原に申し聞けたい事があります、あなたがこれにお在《いで》になると御心配になりますから、おかやを連れて婆《ばあ》やの所へでもおいでなすって」
 母「いや参りません、人を殺して云訳《いいわけ》が立ちますか、なぜ悪い事があれば喜代之助殿に届けて事をせん、それでは云訳は立ちません、はい先方《むこう》様が捨て置かんで、私も武士だと云って抜いて斬り付ければお前も引抜いて立合うだろう、お前が斬り殺されるのは自業自得だが、又先方様を殺せば二人の人殺しだから手前の命はあるまい、手前は匹夫《ひっぷ》の勇を奮《ふる》って命を亡《な》くしても仕方がないが、跡はどうする」

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