なく又悪い事を始めて元の森松になるとしょうがねえから、堪忍して置いておくんなせえ、これから気を注《つ》けやすから」
 文「往き処のない者を無理に出て往けとは云わんが、能《よ》く考えて見ろ、藤原の女房を私《わし》が家内にして為になると心得て居《お》るか、それが分らんと云うのだ、藤原が右京の屋敷を出たのも彼《あ》の女の為に多くの金を遣《つか》い果し今は困窮して旦《あした》に出て夕《ゆうべ》に帰る稼ぎも、女房《にょうぼ》や母を糊《すご》したいからだ、其の夫の稼いだ金銭を窃《くす》ねて置けばこそ、手前に酒を飲ませたりすると云う事が分らんかえ、痴漢《たわけ》め」
 森「分らねえから泡《あわ》アくって仕舞ったので、その文《ふみ》を返《けえ》しましょうか」
 文「これは己が心あるから取り置く」
 と文治の用箪笥《ようだんす》の引出へ仕舞い置きましたのは親切なのでございます。左様なことは知らんから、おあさの方では返事が来るかと思って何をするにも手に付かず、母に薬もやらず、お飯《まんま》も碌々食べさせないから饑《ひも》じくなって、私にお飯《まんま》を食べさせておくれと云うと皿小鉢《さらこばち》を叩き付け
前へ 次へ
全321ページ中162ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング