おあさは手拭の一筋もやったりなどして居りますと、或日のことおあさが云うに、
 あさ「お母《っか》さんが煩っていてじゞ穢《むさ》くって仕様がないよ、何かする側で御膳を喫《た》べるのは厭《いや》だから、森さんお前さんの知っている所でお飯《まんま》を喫べよう」
 と云われた時は森松は嬉しくって、
 森「参りやすとも、角の立花屋へ往って待っておいでなせえ」
 と約束して、これから森松は借物の羽織で小瀟洒《こざっぱり》した姿《なり》をして出掛けて往《ゆ》き、立花屋の門口から、
 森「親方|今日《こんちや》あ」
 立[#「立」は底本では「五」と誤記]「いや森さんかえ」
 森「二階に(こゆびを見せる)こりゃアいやアしませんか」
 立「なんだい小指を出して、お前さんのお連《つれ》かえ、先刻《さっき》から来ているよ」
 と云われ、森松はニコ/\しながらとん/\/\と二階へ上《あが》ると、種々《いろ/\》な酒肴《さけさかな》を取っておあさが待って居りまして、
 あ「ちょいと遅いことねえ、お前《ま》はんが来ないから私は極りが悪くって仕様がないよ」
 森「宅《うち》を胡麻化して来ようと思ってつい遅くなりやした
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