で心中する処を助けて、海老屋へ連れて来て顔を見たのが初めてゞ、あゝ美しい芸者だと思った其の時の姿は今に忘れねえが、彼《あ》の時の乱れた姿は好《よ》かったなア」
村「おや様子のいゝ事を仰しゃること、家《うち》にいると私のような無意気者はないと姉さんに云われましたのを、美くしいなどと仰っては間がわるくって気がつまりますよ」
文「いや真に美くしい女だ、手前が毎日路地を入って来ると、文治郎の家《うち》には母が留守だから隠し女でも引入れるのではないかと、長屋で噂をするものがあるから、それで手前に来てくれるなと云うのだ、友之助も母の留守へ度々来るのは快くあるまいから、もう今日|切《ぎ》り来てくれるなよ」
村「あら、参りませんと叱られますから来ない訳には参りません、旦那様は大恩人ですから斯う云う時に御恩返しをして上げろと申し、私《わたくし》も来たいから甘《おいし》くなくっても何か拵えてお邪魔に上ります」
文「手前が来てくれゝば己は有難いが、心中する程思い込んだ同士が夫婦になり、女房が無闇に一人で出歩けば亭主の心持は余りよくあるまい、己は独り者でいる所へ手前が毎日来て、ひょっと悋気《りんき》で
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