態々《わざ/\》持って来てくれなくもいゝのに」
村「おいしくなくっても私《わたくし》が手拵《てごしら》えにして持って参りますが、其の代りには甘ったるい物が出来たり塩っ辛い物が出来たりしますが、旦那に上げたい一心で持って参りますのですから召上って下さいまし」
文「お前の手拵えとは辱《かたじけ》ない、日々《にち/\》の事で誠に気の毒だ、今日は丁度森松を使《つかい》にやったから、今自分で膳立《ぜんだて》をして酒をつけようと思っていた処で、丁度いゝから膳を拵えて燗《かん》をつけておくれ、手前と一杯やろう」
と云うので、お村は立って戸棚から徳利《とくり》を出して、利休形の鉄瓶《てつびん》へ入れて燗をつけ、膳立をして文治が一杯飲んではお村に献《さ》し、お村が一杯飲んで又文治に酬《さ》し、さしつ押えつ遣取《やりとり》をする内、互いにほんのり桜色になりました。色の白い者がほんのりするのは誠にいゝ色で、色の黒い人が赤くなると栗皮茶のようになります。
文「お村や、手前は柳橋でも評判の芸者であったが、私《わし》は無意気《ぶいき》もので芸者を買ったことはないが、手前に恩にかける訳ではないが、牛屋の雁木
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