です」
 文「私《わし》は本所の業平橋にいる浪島文治郎と云う至って粗忽者《そこつもの》、此の後《ご》とも御別懇に願います」
 長「なに、そう云う訳ですか、生憎《あいにく》亥太郎が居りませんが、もう蔵は冬塗る方が保《もち》がいゝが、今からじゃア遅い、土が凍りましょう」
 森「何を云うのだ、聾《つんぼ》だな…そうじゃアねえ、お前《めえ》さんは左官の亥太郎さんの親父《おとっ》さんかと聞くのだ、此方《こなた》は本所の旦那で浪島文治郎と云うお方だ」
 長「なに、江島《えじま》の天神さまがどうしたと」
 森「分らねえ爺《と》っさんだ、旦那が声が小せいから尚お分らねえのだ、最《もっ》と大きな声でお話なせえ」
 文「私《わし》は本所業平橋の浪島文治郎と申すものです」
 長「はア、本所業平橋の浪島文治郎と仰《おっし》ゃるのか、亥太郎の親父《おやじ》長藏と申します、お心|易《やす》く」
 文「此の度《たび》は誠にお前さんにお気の毒で」
 長「なアに此の度ばかりじゃアない、これは時々起るので、腰が差込んでいけません」
 森「そうじゃアねえ、旦那がお前に近付《ちかづき》に来たのだよ」
 文「亥太郎さんと私《わ
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