頭痛がすると見え手拭で鉢巻《はちまき》をしているが、時々|脱《ぬ》け出すのを手ではめるから桶《おけ》のたがを見たようです。
 森「御免なせえ」
 長「へえお出《いで》なせえ、何《なん》です長屋なら一番奥の方が一軒明いている、彼所《あすこ》は借手《かりて》がねえようだが、それから四軒目の家《うち》が明いているが、些《ちっ》とばかり造作があるよ」
 森「なんだ、長屋を借りに来たのだと思ってらア、旦那お上《あが》んねえ」
 文「初めてお目に懸りました、貴方《あなた》が亥太郎さんの御尊父さまですか」
 長「へえお出《いで》なさい、誠に有難う、御苦労様です、なに大《たい》したことはありませんが、何《ど》うもお寒くなると腰が突張《つっぱっ》ていけません、奥の金《きん》さんが私《わっち》の懇意のお医者様があるから診て貰ったら宜かろうと云ったから、なアにお医者を頼む程じゃアねえと云っておいたが、それで来ておくんなすったのだろう、早速ながら脈を診ておくんなさい」
 森「何を云ってるんでえ」
 文「医者ではない、お前さんは亥太郎さんの親父《おとっ》さんかえ」
 長「へえ、私《わし》は亥太郎の親父《おやじ》
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