付けると云うので、暮の廿六日に牢|行《ゆき》になりました。此の事を聞いて文治郎は気の毒に思い、段々様子を聞くに、亥太郎には七十に近い親父《おやじ》があると云う事が分り、義のある男ですから何《ど》うか親父を助けてやりたい、稼人《かせぎにん》が牢へ往《ゆ》き老体の身で殊に病気だと云うから嘸《さぞ》困るだろう、見舞に往ってやろうと懐中へ十両入れて出掛けました。其の頃の十両は大《たい》した金です。森松を供に連れて神田豊島町二丁目へ参り、大坂屋《おおさかや》と云う粉屋《こなや》の裏へ入り、
 文「森松こゝらかな」
 森「へえこゝでしょう、腰障子に菱左《ひしさ》に「い」の字が小さく角《すみ》の方に書いてあるから」
 文「こゝに違いない、手前先へ入れ」
 森「御免なさい」
 と腰障子を開けると漸《やっ》と畳は五畳ばかり敷いてあって、一間《いっけん》の戸棚《とだな》があって、壁と竈《へッつい》は余り漆喰《じっくい》で繕って、商売手だけに綺麗に磨いてあります。此処《こゝ》に寝ているのが亥太郎の親父《おやじ》長藏《ちょうぞう》と申して年六十七になり、頭は悉皆《すっかり》禿げて、白髪の丁髷《ちょんまげ》で、
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