いながら突然《いきなり》鉄砲を提《ひっさ》げ飛ぶが如くに駈出しましたが、無鉄砲と云うのはこれから始まったのだそうでございます。文治郎はこれを見て驚きました。今迄随分乱暴人も見たが、見付の鉄砲を持出すとは怪《け》しからぬ奴だが、鉄砲に恐れて逃げる訳には往《ゆ》かず、拠《よんどこ》ろないから刀の柄前《つかまえ》へ手を掛け、亥太郎の下りて来るのを待って居りました。これが其の頃評判の見附前の大喧嘩でございますが、これより如何《いかゞ》相成りましょうか、次回《つぎ》に申し上げます。

  七

 偖《さて》前回に演《の》べました文治郎と亥太郎の見附前の大喧嘩は嘘らしい話ですが、神田川《かんだがわ》の近江屋《おうみや》と云う道具屋の家《うち》に見附前の喧嘩の詫証文《あやまりじょうもん》と、鉄|拵《ごしら》えの脇差と、柿色の単物が預けてあります。これは現に私《わたくし》が見たことがございますので、左官の棟梁亥太郎の書いたものであります。幾ら乱暴でも公儀のお道具を持出すと云うのはひどい奴で、此の乱暴には文治郎も驚きましたが、鉄砲を持って来られては何分《なにぶん》逃げる訳にもゆかんから、關兼元《せきかね
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