りますから、亥太郎は脆《もろ》くもばらりっと手を放すや否や、何《ど》ういう機《はずみ》か其処《そこ》へドーンと投げられました。力があるだけに尚《な》お強く投げられましたが、柔術で投げられたから起ることが出来ません。流石の亥太郎も息が止ったと見えましたが、暫《しばら》くすると、
亥「此の野郎、己を投げやアがったな、覚えていろ」
と云いながら立上ってばら/\/\と駈出しましたから、彼奴《あいつ》逃げるかと思って見て居りますと、亥太郎は浅草見附へ駈込みました。只今見附はございませんが、其の頃は立派なもので、見張所には幕を張り、鉄砲が十|挺《ちょう》、鎗《やり》が十本ぐらい立て並べてありまして、此処《こゝ》は市ヶ谷|長円寺谷《ちょうえんじだに》の中根大隅守様《なかねおおすみのかみさま》御出役《ごしゅつやく》になり、袴《はかま》を付けた役人がずーっと並んでいる所へ駈込んで、
亥「御免なせえ、今喧嘩をしたが、空手《からって》で打《ぶ》つ物がねえから此処にある鉄砲を貸しておくんねえ」
役人「何《なん》だ、手前|狂人《きちがい》か」
亥「狂人《きちげえ》も何もねえ、貸しておくんねえ」
と云
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