おれ》の顔を見て覚えて置け、豊島町の亥太郎だぞ」
と云う騒ぎに亭主が奥から駈出して来て、
主人「申し棟梁さん、腹を立たないでおくんなさい、これは一昨日《おとゝい》来た番頭でお前さんの顔を知らないのですから」
亥「己は弱い者いじめは嫌《きれ》えだが食逃げとはなんでえ」
主「棟梁さん勘忍しておくんなさい」
と頻《しき》りに詫をしている。只今なれば直《じ》きに棒を持って来てこれ/\と人を払って、詰らぬものを見ていて時間を費《ついや》すより早く往ったが好かろうと保護して下さるが、其の頃は巡査がありませんから追々人立がして往来が止るようになりました。文治は斯う云う事を見ると捨てゝ置かれん気性でございますから心配して、
文「大分《だいぶ》人立がしているが何《なん》だえ」
森「生酔《なまよい》が銭がねえと云うのを、番頭が困るって云ったら番頭を撲りやアがって」
文「可愛そうに、商売の障りになるから其の者が銭がなければ払ってやって早く表へ引出してやれ」
森「え、御免ねえ/\、おい兄い々々|爰《こゝ》でそんな事を云っちゃア商売の障りにならア表へ人が黒山のように立つから此方《こっち》へ来ね
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