うから、何時《いつ》でも棟梁さん宜しいと云われ、随分売れた人でした。それが吉川では番頭が代って亥太郎の顔を知らなかったのが間違いの出来る原《もと》で、
亥「番頭さん相変らず銭がないから今度払いを取った時だぜ」
番「誠に困りやす、代を戴かなくちゃア困りますなア」
亥「困るって左官の亥太郎だからいゝじゃアねえか」
番「亥太郎さんと仰《おっし》ゃるか知れませんが銭がなくっては困ります」
亥「左官の亥太郎だよ」
番「誰様《どなたさま》かは存じませんが、飲んで仕舞ってから払いをしなければ食逃げだ」
亥「ナニ食逃げとは何をぬかす」
と云いながら職人で癇癖《かんぺき》に障ったから握り拳《こぶし》を以《もっ》て番頭を撲《なぐ》りましたが、右の腕に十人力、左の手に十二人力あります、何《ど》うして左の手に余計力があるかと云うに、これは左官のせいで、左官と云う者は刺取棒《さいとりぼう》で土を出すのを左の手の小手板で受けるのは何貫目《なんがんめ》あるか知れません、それゆえに亥太郎の左手が力が多いので、その大力無双《だいりきぶそう》の腕で撲られたから息の根が止るばかりです。
亥「これ、能く己《
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