に包み、大伴蟠龍軒の名前を聞いて居《お》るから、本所割下水へ行《ゆ》くと、結構な誂《あつら》え物をした上に始めての交際《つきあい》だと云うので、多分の目録をくれ、馳走をして帰しました。大分《だいぶ》調子が好《よ》いから友之助はちょい/\行《ゆ》くと、帰りに夜《よ》に入《い》った時は、大儀だろう駕籠《かご》に乗って帰るが宜《よ》いと云って、駕籠へ乗せて帰す。友之助は結構な出入先が出来たと喜んで足を近く行って見ると、何時《いつ》も能く来たと云って大伴蟠龍軒も蟠作《ばんさく》も兄弟揃って友之助をヤレコレと云う。友之助は一体|善《よ》い人でございますから、二なき出入が出来たと心得て、屡《しば/\》参ります。其の中《うち》四月十一日の丁度只今なれば午後二時少々廻った時分で、日長《ひなが》の折から門弟衆は遊びに出て仕舞って、お中口《なかぐち》はひっそりと致して居ります。
友「お頼み申します/\/\何方様《どなたさま》も入っしゃいませんか、御免を蒙《こうむ》ります」
と次の間へ荷を置きまして、
友「御免下さい」
蟠龍軒「誰《たれ》だ」
友「へー紀伊國屋で」
蟠「能く来た、お前が三日も来ぬと一月《ひとつき》も来ぬ様な心持で合縁奇縁《あいえんきえん》で妙なものだ、どうも懐かしいな」
友「恐入ります、先日は又多分の頂戴物《ちょうだいもの》をいたして、殊《こと》に御馳走になり酩酊いたして有難いことで、何時《いつ》も酔って帰りまして家内に叱られます」
蟠「どうも可愛い男だ、今|阿部《あべ》忠五郎《ちゅうごろう》と舎弟と碁を遣《や》り初めたが、私《わし》は一杯遣ってるが誠に陰気でいかぬ、どうも好《すき》だから彼《あ》の通りだ」
友「へー大層夢中になって入っしゃいます……御舎弟様、御機嫌宜しゅう…阿部様御機嫌宜しゅう…少しもお耳に這入《はい》りませんな」
蟠「これ蟠作、紀伊國屋が来た」
蟠作「いや、これはどうも久しく逢わぬが、余り来ないと云って兄と案じていた、今阿部と初めた処だが碁に掛ると他に念なしで夢中になるから」
阿「さア六《むず》ケしくなって来ました、此処《こゝ》の隅《すみ》だけは取られた塩梅《あんばい》だ」
友「阿部様、少しお悪い様で」
阿「これはどうも、誠に先日はお互いに酔って御無礼を致しました、御舎弟には中々|敵《かな》わぬ、今一生懸命の処で御挨拶《ごあいさつ》は出来ません……置いては悪いと云う、紀伊國屋が来ればと行《ゆ》く……成程これは悪い、あッと切れて居《お》ることを知りませんでした、これはどうも大ごと二十五|目《もく》と云う仕事、これは弱りましたな……斯《こ》う遣《や》ると向うへ登ると、えゝ紀伊國と斯うやる、紀伊國屋と突くと向うが紀伊國と跳上《はねあ》げられる、弱るね、紀伊國屋と斯う突くと向うが紀伊國とやる」
友「はゝゝゝどうも紀伊國屋|尽《づく》しの碁は初めて見ました」
蟠「紀伊國屋は碁は好《すき》だそうだな」
友「へえ私《わたくし》は碁で十六|度《たび》失錯《しくじり》ました」
蟠「大層失錯りましたね」
友「御膳より好で、目の先へ斯う始終碁が並んでいる様で、商《あきない》の邪魔になりますからピッタリ止《や》めました」
蟠「どうだ、阿部は下手の横好きで舎弟に七|目《もく》負けたが、どうだ阿部と一石《いっせき》やりなさい」
蟠作「紀伊國屋遣りなさい、自分の身代《しんだい》になれば碁に勝っても宜《い》いじゃアないか、よう遣りなさい」
友「じゃアお相手致しましょうか」
と素《もと》より好きだから紀伊國屋は心嬉しく、
阿「あれさ黒はいかぬ、白を持ちな」
友「どう致しまして」
阿「手前《てまい》は白を持ったことはない、お前は上手らしいから私《わし》は黒が宜い」
友「じゃア参りましょう」
とパチリ/\と根が好だから夢中になって二番ばかり打ちますと、阿部はばた/\と負けた。
蟠「どうしたの」
阿「へえ何《ど》うも紀伊國屋強うございます」
蟠「勝《かっ》たか」
友「阿部様はほんの飴《あめ》でしょう」
阿「なか/\飴でない」
蟠「どうして阿部はとてもいかぬ、へぼだ、へぼで飴を食わせることは出来ぬ」
阿「じゃア斯《こ》うしましょう、張合《はりあい》になりませんから負けたら大きいもので一杯グーッと飲んではどうでしょう」
蟠「狡《ずる》い事を考えるな、阿部は自分が酒が飲みたいものだから」
阿「そうでない、さア遣りましょう」
蟠「これ/\友之助、阿部はむかっ腹を立てゝ面白いから一両ばかり賭《か》けて遣りなさい、慾張って居《お》るから取られると額《ひたえ》へ筋を出して面白いから、阿部、紀伊國屋と一両賭けて賭碁《かけご》は何《ど》うだ」
阿「どうも勝って来たものだから直《すぐ》に附込《つ
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