妓《こ》は堅くて無駄だからお止し、いけないと云っても中々|肯《き》かないで逆上《のぼせ》切ってるのサ、芸者を引きたければ華《はなや》かにして箱屋には総羽織《そうばおり》を出し、赤飯を蒸《ふか》してやる、又芸者をしていたいのならば出の着物から着替から帯から頭物《あたまのもの》まで悉皆《そっくり》拵《こしら》えて、お金は沢山《たんと》は出来ねえが、三百両や四百両ぐらいは纒《まと》めて遣《や》ると斯《こ》ういう旨い口だ、私などは願っても出来やしない、余《あんま》り宜《よ》い口だから、否《いや》でもあろうが諾《うん》とさえ云えば大《たい》した事に成るのだから話をして見るんです」
さ「おや/\それは誠に有難い事ねえ、本当に私は夢のような心持がします、今時そんな方が出て来るものではないのだが、全く姉さんのお取做《とりなし》が宜いからで、乙なもので何《なん》でも太鼓の叩き次第だからねえ、早速お村に申しましょう、お村や/\一寸降りて来《き》なよ」
村「あい」
と優しい声で返辞をして、しとやかに二階から降りて参り、長手の火鉢の角の処へ坐り、首ばかり極彩色《ごくざいしき》が出来上り、これから十二|一重《ひとえ》を着るばかりで、お月の顔を見てにこりと笑いながら、ジロリと見る顔色《かおいろ》は遠山《えんざん》の眉《まゆ》翠《みどり》を増し、桃李《とうり》の唇《くちびる》匂《にお》やかなる、実に嬋妍《せんけん》と艶《たお》やかにして沈魚落雁《ちんぎょらくがん》羞月閉花《しゅうげつへいか》という姿に、女ながらもお月は手を突いてお村の顔に見惚《みと》れる程でございます。
村「姉さんお出《いで》なはい」
月「お村はん、今お母《っか》はんに三浦屋の御舎さんの事を話したのだが、諾《うん》とさえ云えば大した事になるのだよ、嘸《さぞ》此間《こないだ》からお前に種々《いろ/\》な事を云うだろうね」
村「あゝ、来るたんびに変な事を云って困るよ」
月「私にも種々云ってしょうがないから、騙《だま》かして云い延べて置いたが、責《せめ》られてしょうがないよ」
さ「お村や、諾《うん》とお云いよ、有難い事だ、姉さんが何とか、日光《にっこう》御社参《ごしゃさん》とかいうお方が妾になれと仰しゃるのは有り難い事だから、諾とお云いよ」
村「姉はん、それは男も醜くはなし綺麗なような人だが、何だか私は虫が好かない、
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