あいつら》は溝《どぶ》の水で沢山だ」
國「だがねえ旦那え、それは好《い》いが、お前《めえ》さん藪《やぶ》を突《つッつ》いて蛇を出してはいけませんぜ、是りゃアとんでもない喧嘩になりますぜ」
文「なぜ」
國「何故ったってお前《めえ》さん、溝《どぶ》の中へ投《ほう》り込まれて黙っている奴はねえ、殊に相手は剣術遣い、兄弟弟子も沢山有りましょう、構ア事はねえ押込んで往《い》けと二十人も遣《や》って来られた日にゃ大騒ぎですぜ」
文「それは来る気遣《きづかい》はない、心あるものなら師匠が止める、私《わし》は顔を隠して置いたから相手は知れない、そこで溝へ投り込んだのは私《わし》だか何《なん》だか訳が分らないから、心ある師匠なら一時《いちじ》止まれと言って止めるなア」
國「師匠に心が有るか無いか知りませんけれども、お前《めえ》さん喧嘩に往くのに断って出るものが有りますか、私達《わっちたち》が湯屋で間違《まちげえ》をして拳骨の一ツも喰《くら》って来て、友達が之《これ》を聞いて外聞が悪いから押して往けと言う時に、親方へ一寸《ちょっと》喧嘩に往って来ますと断って出る者は有りますめえ、密々《こそ/\》と抜け出して出し抜《ぬけ》にわッと云って、大勢が長いのを振舞わして此処《こゝ》へ遣って来られた日にゃ大変じゃありませんか」
文「もしや来たらお浪を遣《よこ》して私《わし》に知らせろ、そうして私《わし》の来る間|手前《てめえ》は路地口の処へ出て掛合っていろ、手前《てまえ》は此の長屋の行事でございますが、何《ど》ういう訳で左様に長い物を振《ふる》って町家《ちょうか》をお荒しなさいまする、その次第を一応手前にお告げ下さいと云って出ろ」
國「そりゃ否《いや》だね、行事だ詰らねえ事を云う、面倒臭いと斬られてしまいましょう、否《い》やだアねえ」
文「若《も》し来たら知らせれば宜《よ》い、左様なら」
と足を早めて往《ゆ》きますから、
國「もし旦那、もし、あれだもの仕様がない、あれ旦那」
と云うを耳にも止めず文治郎は平気《すまし》て帰って往《ゆ》きます。國藏は頻《しき》りに心配して大家さんへ届けたり、自身番を頼んだりぐる/\騒いで居りますると、文治郎の鑑識《めがね》に違《たが》わず、それっ切り仕返しにも来ませんでしたが、後《のち》に小野庄左衞門は蟠龍軒から怨《うらみ》を受け、遂に復讎《ふく
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