ですから、手前へお免じください、暫くお待ちください、まア/\」
 と後《うしろ》から押しまする。和田原八十兵衞は長いのを振上げたなり、
 八十「邪魔致すな其処《そこ》放せ」
 と云いながらこちらを振り向うとすると、ギュッと手を逆に捻《ねじ》る、七人力も有ります人に苛《ひど》く利き処を押えられ、痛くて向く事が出来ませんから、又|左方《こちら》へ向うとすると、右へ捻りまするから八十兵衞は右と左へぐる/\して居ります。文治郎は、
 文「暫く/\」
 といいながら狭い路地を押し出して、表へ連れて参りました。後《あと》には娘お町が有難いお人だと悦んで居りました。國藏は又|頻《しき》りに心配して、ぐる/\駈廻《かけまわ》って居りまする処へ文治郎が立帰《たちかえ》って参り、
 文「先《ま》ずお怪我がなくてお目出とうございました」
 町「おや、あなたは先程の文治郎さま、未《ま》だお帰りにはなりませんでしたか」
 文「御同長家《ごどうながや》の内に懇意な者が居りますので、おゝこれ此処《こゝ》に居ります此の國藏の宅に今まで居りました処、此の騒ぎ、怪《け》しからん奴でございましたなア」
 町「お父様《とっさま》、先程の文治郎様が今の人達を連れ出してくださいましたとの事、お礼を仰しゃいまし」
 庄「誠に種々《いろ/\》御厄介に相成りました、余り不法を申しますから残念に心得、一言二言云うと貴方《あなた》、白刃《はくじん》を振廻《ふりま》わし、此の狭い路地を荒す無法の奴でございます」
 國「もし旦那、彼奴等《あいつら》を何処《どこ》へ連れてお往《い》でなさいやしたえ」
 文「ウン、表の割下水《わりげすい》の溝《どぶ》の中へ投《ほう》り込んで来た」
 國「えゝ溝の中へ投り込んで来たとえ、苛《ひど》い事をお行《や》りなすったねえ、今に上ってきやアしませんか」
 文「上っても腕は利かん、逆に捻って胴を下駄で強《ひど》く蹴《け》て、手足を挫《くじ》いて置いたから這い上って帰るだろう」
 國「へえ苛い事をなさるねえ、私《わっち》は又|何処《どっ》かの待合茶屋《まちあいぢゃや》へでも連れてって、扨《さて》如何《いかゞ》の次第でございますか、兎に角任せて下さいと云って、お前《めえ》さんが仲人《ちゅうにん》に入って、茶か何か呑ませているんだろうと思って居りました」
 文「茶などを呑ませてたまるものか、彼奴等《
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