の御理解でも聾《つんぼ》程も聞かねえ國藏が改心して、これから真人間になって稼ごうと思ったけれども、借金があって真面目になることが出来ねえと思っていると、お前《めえ》さんが金を下すったから、それで借金の目鼻を付け、四ツ目の親分の所へ往って、これから仕事をすると云った処が、親分も大層悦んで仕事をよこしてくれやしたが、先の家じゃア狭くって仕事が出来ねえから、今日此処へ移転《ひっこ》して来て、蕎麦を配るからどうか旦那にお初うを上げたいと思っていたが、丁度いゝ処でのうお浪」
 浪「本当ですよ、旦那様にお目に懸ってお礼を申し上げたいと思っても、着て行《ゆ》くものがありませんから損料でも借りて着て行《い》こうと思って」
 國「黙ってろ、おい/\お浪、何方《どこ》の蕎麦屋へでも早く往って大蒸籠《おおぜいろ》か何かそう云って来な、駈け出して往って来い、コヽ跣足《はだし》で往け、へい申し旦那、お浪の云う通り損料を借りて紗綾羽二重《さやはぶたえ》を着て往ってもお悦びなさる旦那じゃねえ、損料を着て往けば立派だが、その時限りのことで、家《うち》へ帰《けえ》って来れば直ぐなくなって仕舞うから、それよりゃアその金を借金方へ填《う》めて精出し、働らいて儲《もう》けた銭で買った着物を着て往かなけりゃアならねえと思って居りやす、旦那え不思議なことにゃアお浪が此の頃|神信心《かみしんじん》を始めやした、彼奴《あいつ》は男を七人殺しやした奴ですぜ、それが手で殺すのじゃアねえのさ、皆《みんな》口で欺《だま》して殺すというのは、欺された男が身を投げたり首を縊《くゝ》ったりしやしたのさ、そう云う奴が観音様を拝むようになったから、観音様を拝んでも御利益《ごりやく》があるものか、それよりも首を継いでもらった旦那を拝めってなアお浪、あ、今彼奴は蕎麦屋へ行ったっけ」
 文「そりゃア悦ばしいのう、己《おれ》の云うことを聞いて手前が改心すれば、彼《あ》の時打擲したことは文治郎が詫るぞ」
 國「勿体《もってえ》ねえことをお云いなさる、此間《こないだ》親父の墓場へ往って石塔へ向って、業平橋の旦那のお蔭でお前《めえ》の下へ入《へい》れるようになったよと云ったが、親父も草葉の蔭で安心しましたろうと思いますのさ」
 文「これは誠に少しばかりだが、家見舞だから取って置いてくれ」
 國「旦那こんなことをなすッちゃアいけねえやね」
 文「
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