、折角持って参った金ですからどうかお受け下さいまし」
 庄「いや/\受けません、見ず知らずのお方に四十金戴く訳がございません」
 文「見ず知らずでございますが、昨夜お嬢様にお目に懸ったのが御縁でございます、躓《つまず》く石も縁の端《はし》とやら、貴方の御難儀を承っては其の儘にはおけません、どうかお受け下さいまし」
 庄「どう致して、とても受けられません」
 文「左様なら此の金を上げると云っては失礼でございますが、兎《と》に角《かく》明いて居《お》る金でございますからお遣い下さい」
 庄「いや/\借《かり》ても今の身の上では返えせる目途《もくと》がありませんからお借り申すことは出来ません」
 文「それではお嬢様に」
 庄「いや/\娘も戴く縁がありません」
 文「さア貴方はお堅いが、能くお考えなすって御覧なさい、貴方がいつまでもお眼が悪いと唯《たっ》た一人のお嬢様が夜中《やちゅう》に出て神詣《かみまい》りをなさるのは宜しいが、深夜に間違いでもあれば、これ程お堅い結構な方に瑾《きず》を付けたら何《ど》うなさる、私《わたくし》が金を上げると申したら御立腹でござろうが、子の心を休めるのも親の役でございます、文治郎が失礼の段は板の間へ手を突いてお詫をします、他人と思召《おぼしめ》さずにお受《うけ》を願います」
 庄「あゝこれ/\お手をお上げ下さい、貴方は何《なん》たるお方かなア、大金を人に恵むに板の間へ手を突いて、失礼の段は詫ると云う、誠に千万|忝《かたじ》けのうござる、只今の身の上では一両の金でも貸人《かして》のない尾羽《おは》打枯《うちから》した庄左衞門に、四十金恵んで下さるは、屋敷に居りました時千石加増したより忝けのうござるがナ、手前強情我慢で、これまでは涙一滴|溢《こぼ》さんが、今日《こんにち》只今嬉し涙と云うことを始めて覚えました、なれども此の金は受けられませんから、どうかお持帰りを願います、それを貴方がいつまでも手を突いて仰《おっし》ゃれば致し方がないから切腹致します」
 文「あゝそれは困ります、成程お堅いから仕方がないが、然《しか》らば金で持って参ったから受けて下さるまいが、薬なら受けて下さるだろうな」
 庄「薬も廿四銅か三十銅の品なら受けますが高金《こうきん》の品では受取れません」
 文「左様なら致し方がないが、どうかお気に障《さ》えられて下さるな」
 庄「どう
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