珠《しんじゅ》、麝香《じゃこう》、竜脳《りゅうのう》、真砂《しんしゃ》右|四味《しみ》を細末にして、これを蜂蜜《はちみつ》で練って付ける、これが宜しいが、真珠は高金《こうきん》だから僕のような貧乏医者は買って上げる訳にいかん、それに就いて兼《かね》て申上げました此方《こちら》のお娘子《むすめご》がお美しいと云うことを、北割下水《きたわりげすい》の大伴《おおとも》と云う剣客《けんかく》へ話した処が、是非世話をしたいから話しをして呉れと云うから、先日貴方へ申上げた事がありますが、お堅いからお聞済《きゝずみ》がないが、時世で仕方がないから、諦めて貴方が諾《うん》と云えば僕が先方へ参って話をすれば、お目薬料ぐらいは直《じき》に出ますからそうなさいな」
 庄「いゝえ、そんな話は止《や》めて呉れ、お前が来るとそんな事ばかり云うが、私《わし》には一人の娘を妾《めかけ》手掛《てかけ》に遣るくらいなら裏家住居はしません、そんな話をされると耳が汚《けが》れるから止して呉れ」
 秋「貴君《あなた》はお堅いがね小野|氏《うじ》、僕もいろ/\丹誠して癒らんければ名にも係《かゝわ》るから、お厭《いや》でもお娘子をお遣《つか》わしになれば、目薬料が出て御全快になって、而《しこう》して後《のち》のことでございます」
 庄「いや眼は盲《つぶ》れても宜しい、お前さんの薬はもう呑まないよ」
 秋「それじゃア無理には申さんから宜しいが、お嬢さま、お父様《とっさま》はあの通りお聞入れはないが、私《わたくし》の帰った後《あと》で能くお父様と御相談なさいよ、お父様がいやと仰しゃっても貴女《あなた》がおいでなさると云えば、お父様のお眼も癒るから、いやでも承知しなければなりません、何《いず》れ又出ますよ、左様なら」
 庄「いやな奴だ、来ると彼奴《あいつ》あんなことばかり云っている、医者が下手だから桂庵《けいあん》をしているのだろう」
 と云っている処へ参りましたのは、藍《あい》の衣服《きもの》に茶献上の帯をしめ、年齢は廿五歳で、実に美しい男で、門《かど》へ立ちまして、
 文「御免なさい」
 町「お父様《とっさま》入っしゃいましたよ」
 庄「誰方《どなた》かえ」
 町「文治郎様が」
 庄「さア何卒《どうぞ》これへお上り遊ばしませ」
 文「昨夜はどうも、これはお礼で恐れ入ります、貴女《あなた》が御無事でお帰りかと後《あ
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