めえ》の方へ連れて往《い》けば話の付くようにするから台所へ来な」
 國「おい兄さん、人を擲殺《たゝッころ》して内済《ねえせい》で済みますかえ、そりゃア済ます人もあるか知れませんが、私《わっち》アいやだ、怖《おっ》かねえ事を仰しゃるねえ、お母《ふくろ》さん、こんな事を云われると私《わっち》ア臆病《おくびょう》ものですからピクーリ/\としますよ」
 森「台所へ来いよ/\」
 と森松は懊《じ》れこんでいくらいっても動きません。其の筈で森松などから見ると三十段も上手《うわて》の悪党でござりますから、長手の火鉢《ひばち》の角《すみ》の所へ坐ったら挺《てこ》でも動きません。処《ところ》へ業平文治が帰って来まして、
 文「森松|此処《ここ》を片付けろ」
 と云うから、森松は次の間の所へ駆出《かけだ》して、
 森「あなたは大変な事をやりましたねえ」
 文「何を」
 森「杉の湯で國藏の嚊を打擲《ぶんなぐ》りましたろう」
 文「来たか、昨夜《ゆうべ》打擲った」
 森「打擲ったもねえものだ、笑い事じゃごぜえやせん、彼奴《あいつ》は一《ひ》ト通りの奴じゃアありませんから、襤褸褞袍《ぼろどてら》を女に着せて、膏薬を身体中へ貼り付けて来て、動《いご》けねえから此方《こっち》の家《うち》へおいて重湯でも啜《すゝ》らせてくれろと云って、中々|手強《てごわ》いことを云ってるから、四五両では帰《けえ》りませんぜ、四五十の金は取られますぜ」
 文「宜しい、心配するな」
 森「宜しいじゃありませんやね」
 文「お母《っか》さんが御心配だろうな」
 森「お母さんは無闇に謝まってばかりいますから、猶《なお》付込みやアがるのさ」
 文「お母さんを此方《こっち》へお呼び申しな」
 と云うから小声で、
 森[#「森」は底本では「母」と誤記]「お母さん/\、此方へ/\」
 と云って親指を出して知らせると、母も承知して次の間へ参りまして、
 母「お前飛んだ事をおしだねえ」
 文「あなたのお耳へ入れて誠に相済みません」
 母「済まないと云って無闇に人を打《ぶ》つと云う法がありますか、先方様《さきさま》は素直に当家へ病人を引取って看病さえしてくれゝば宜しいと云うから、どうも仕方がないわな」
 文「彼奴《あいつ》は悪い奴ですから只今|私《わたくし》が話をして直《すぐ》に帰します、誠に相済みません、あなたは暫《しばら》くお居間
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