82−12]袍《どてら》を持って来な」
と着物を着替《きか》え、友之助は二階の小間《こま》に入って、今に死のう、人が途断《とぎ》れたら出ようと思って考えているから酒も喉《のど》へ通らず、只お村は流れたかと考えて居りますと、広間の方で今上って来たか、前からいたのかそれは知りませんが、がや/\と人声がするから、能く聞いてみると、どうもお村の声のようだから、はてなと抜足《ぬきあし》をして廊下伝いに来て襖に耳を寄せると、中にはかん/\燈火《あかり》が点《つ》きまして大勢人が居ります。
文治「姉さん、お前能く考えて御覧なさい、お前さんは義理を立って又飛込《とびこも》うと云うのは誠に心得違いと云うものだ、と云うはお前さんの寿命が尽きないので、私共の船の船首《みよしはな》へ突当《つきあた》って引揚げたのは全く命数の尽きざる所、其の友さんとかは寿命が尽きたから流れて仕舞ったのだに、それをお前さんが義理を立って又|飛込《とびこも》うと云うのは誠に心得違いだ、それよりは友さんも親族《みより》のない人なら其の人の為には香花《こうはな》でも手向《たむ》けた方が宜しい、またお母《っか》さんもお前さんを女郎に売るとか旦那を取れとか、お前さんの厭な事をしろと云う訳はないから、それは私がどうか話を付けて上げよう、左様ではございませんか」
田舎客「左様でがんすとも死のうと云うは甚《はなは》だ心得違い、若い身そらと云うは差迫りますと川などへ飛込んでおっ死《ち》んで仕舞うが、そんな駄目な事はがんせん、能く心を落付けてお頼み申すが宜《え》い」
森松「本当です、お前は芸者じゃアないか、お前は芸者だから先が惚れたんだ、いゝかえ、己《うぬ》が勝手に主人の金を遣《つか》やアがって言い訳がないから死ぬのだが、それに附合《つきあ》って死ぬやつがあるものか、死んだ奴は自業自得《じごうじとく》だ、お前は身の上を旦那に頼んで極《きま》りを付けて仕舞って、跡へ残って死んだ人の為に線香の一本も上げねえ、ウンと云って仕舞いねえ、旦那に任せねえ」
村「はい、有難う存じます、どうぞお母《ふくろ》の方さえ宜《よ》い様にして下されば、折角の御親切でございますから、私の身の上は貴所方《あなたがた》にお任せ申します」
と云うのが耳に入ると、友之助は怒《おこ》ったの怒らないのじゃアない、借着の※[#「※」は「「褞」で「ころもへん」
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