《かうし》を明けて見ますると、両側《りやうがは》共《とも》に黒木綿《くろもめん》の金巾《かなきん》の二巾位《ふたはゞぐらゐ》もありませうか幕張《まくは》りがいたしてございまして、真黒《まつくろ》で丸《まる》で芝居《しばゐ》の怪談《くわいだん》のやうでございます。処《ところ》へ大きな丈《たけ》三|尺《しやく》もある白張《しらはり》の提灯《ちやうちん》が吊《つる》さがつて居《を》ります、其提灯《そのちやうちん》の割《わり》には蝋燭《ろうそく》が細《ほそ》うございますからボンヤリして、何《ど》うも薄気味《うすきみ》の悪いくらゐ何《なん》か陰々《いん/\》として居《を》ります。軒下《のきした》に縄張《なはば》りがいたしてございます此《こ》の中《うち》に拝観人《はいくわんにん》は皆《みな》立《たつ》て拝《はい》しますので、京都《きやうと》は東京《とうきやう》と違《ちが》つて人気《にんき》は誠に穏《おだ》やかでございまして、巡査《じゆんさ》のいふ事を能《よ》く守り、中々《なか/\》縄《なは》の外へは出ません。一|尺《しやく》ぐらゐ跡《あと》に退《さが》つて待《ま》つて居《ゐ》る様子《やうす》、それが東京《とうきやう》の人だと「何《なに》をしやアがる、押《お》しやアがるな、モツと其方《そつち》へ寄《よ》りやアがれ。なんかと突倒《つきたふ》して、縄《なは》から外へ飛出《とびだ》し巡査《じゆんさ》に摘《つま》み込《こ》まれる位《くらゐ》の事がございますが、西京《さいきやう》は誠に優《やさ》しい、「押《お》しなはんな、アの様《やう》な事いうてや、押《お》しなはんな、何《なに》いうてゐやはります。なぞと誠におとなしい夫故《それゆゑ》押《お》される憂《うれ》ひはございません、けれども軒《のき》の下《した》にはギツシリ爪《つめ》も立たんほど立つて居《を》ります。
 其《そ》の中《うち》に追々《おひ/\》お通《とほ》りになります、向うに列《なら》んで居《を》りまするは、近衛兵《このゑへい》と申《まう》す事でございますが、私《わたくし》どもには解《わか》りませんが、兵隊《へいたい》さんが整列《せいれつ》して居《を》ります。指図役《さしづやく》のお方《かた》でございますか、馬乗《ばじよう》で令《れい》を下《くだ》して居《を》られます。四ツ辻《つぢ》の処《ところ》に点《とも》つて居《を》りました電気
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