きし》る音《おと》だ、と仰《おつ》しやいましたが、随分《ずゐぶん》陰気《いんき》な物《もの》でございます。其御車《そのみくるま》に四頭の牛がついて居《を》ります。此牛《このうし》は蓮華班《れんげまだら》といひ、替牛《かへうし》が位牌班《ゐはいまだら》といふのがあり、天簾《あますだれ》といふ牛がある。どうも能《よ》くさういふ毛並《けなみ》の牛が出来《でき》たものでございますが、牛飼《うしかひ》さんに尋《たづ》ねると然《さ》ういふ牛は其《そ》の時に生《うま》れて出ると云《い》ひました、と京都《きやうと》の人が申《まうし》ました。御車《みくるま》の前《まへ》に糞《ふん》をするといかんといふので、黒胡麻《くろごま》を食べさせて糞《ふん》の出ないやうにするといふ、牛も骨の折れる事でございます。毎日々々|食《た》べ附《つ》けない黒胡麻《くろごま》を食《た》べて糞詰《ふんづま》りになるから牛が加減《かげん》が悪くなつて、御所内《ごしよない》の主殿寮《とのものれう》に牛小屋《うしごや》がありまして、其《そ》の中《なか》に寐《ね》て居《を》りますと、牛の仲間が見舞《みまひ》に参《まゐ》りました、といふお話《はな》しを考へました、是《これ》は昔風《むかしふう》の獣物《けもの》が口《くち》を利《き》くといふお話の筋《すぢ》でございます。
 多くの黒牛《くろうし》と白牛《しろうし》が這入《はいつ》て来《き》まして、「御免《ごめん》なさい。「ハイ。「扨《さて》誠にどうもモウ此度《このたび》は御苦労様《ごくらうさま》のことでございます、実《じつ》に何《ど》うも云《い》ひやうのない貴方《あなた》は冥加至極《みやうがしごく》のお身《み》の上《うへ》でげすな。「ヘエ有難《ありがた》うございます。「マア斯《か》ういふ事は滅多《めつた》にない事でございます、我々《われ/\》のやうな牛は実《じつ》に骨の折れる事|一通《ひととほ》りではありません、女牛《めうし》の乳《を》を絞《しぼ》られる時の痛さといふのは耐《たま》りませんな、夫《それ》にまア私《わたし》どもの小牛等《こうしなど》は腹《はら》の毛《け》をむしられて、八重縦《やへたて》十|文字《もんじ》に疵《きず》を付《つ》けられて、種疱瘡《うゑばうさう》をされ布《ぬの》で巻《ま》かれて、其《そ》の痒《かゆ》い事は一|通《とほ》りではありません、夫《そ》れに
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