私共《わたしども》は先年《せんねん》戦争《せんさう》の時などは、支那《しな》の恐《おそ》ろしい道の悪い処《ところ》へ行《い》きまして木石《ぼくせき》を積《つ》んで運《はこ》びますのが、中々《なかなか》骨の折れた事で容易《ようい》ではございません、勿論《もちろん》牛は力のあるのが性質《うまれつき》故《ゆゑ》、詰《つま》りは国《くに》の為《た》めだから仕方《しかた》がございませんが、それに引換《ひきか》へて貴方《あなた》は結構《けつこう》でございますねエ。「ヘエ。「同じ牛でもどうも、五|位《ゐ》の位《くらゐ》が附《つ》いたといふ事を聞きましたが全《まつ》たくでございますか。「ヘエ……そんなに賞《ほ》めてお呉《く》んなさるな、畜生《ちくしやう》の身《み》の上《うへ》で位《くらゐ》など貰《もら》ひましたから、果報焼《くわはうや》けで、此様《こん》な塩梅《あんばい》に身体《からだ》が悪くなつて、牛のくらゐ[#「くらゐ」に白丸傍点]倒《だふ》れとは此事《このこと》で、毎日々々|黒胡麻《くろごま》ばかり食《く》はせられて、食《た》べ附《つけ》ない旨《うま》い物《もの》だからつい食《た》べ過ぎてすつかり通《つう》じが留《とま》りましたので、逆《のぼ》せて目が悪くなつて、誠にどうも向うが見えませんから狭《せま》い通《とほ》りへ行《い》つて、拝観人《はいくわんにん》の中《なか》へでも曳《ひ》き込《こ》むやうな事《こと》があつて、怪我《けが》でもさせると大変《たいへん》だと思つて今から心配でございます、モウ明日《みやうにち》になりました……夫《それ》に私《わたし》の名が貴方《あなた》、どうも蓮華班《れんげまだら》といふのでげすからな、おまけに夢《ゆめ》の浮橋《うきはし》を渡《わた》るといふので替牛《かへうし》がお前《まへ》さん、位牌班《ゐはいまだら》といふので名が一|体《たい》に訝《おか》しうございます、私《わたし》もモウ明日《みやうにち》役《やく》に立てば宜《よ》うございますが、今晩《こんばん》にもヒヨツと生者必滅《しやうじやひつめつ》でございますから……。「然《そ》んな気の弱い事をいつちやア行《い》けません、お加減《かげん》が悪ければ、明日《みやうにち》は御大役《ごたいやく》の事ですから早く牛の角文字《つのもじ》にでも見せたら宜しうございませう…。牛《うし》の角文字《つのもじ》といふ
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