》ねえが今頃《いまごろ》どこへ行《い》つたのだらう、女房《にようばう》は堅気《かたぎ》にかぎると云《い》ふが、あんな女《をんな》を嚊《かゝ》アにすると三年の不作《ふさく》だ。※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《まは》し合羽《がつぱ》に笠《かさ》を脱《ぬ》いで壁《かべ》にかけ、伝「何《な》んだ玉子酒《たまござけ》をして食《く》ひやがつて、亭主《ていしゆ》は山越《やまごえ》をして方々《はう/″\》商《あきなひ》をしてゐるに、嬶《かゝ》アは玉子酒《たまござけ》をして食《くら》やアがる、まだあまつてゐるが飲《の》んでやれ、オイ誰《だれ》だおくまか、どこへ行《い》つたんだ。女「ちよつと徳利《とくり》を取《と》つておくれ雪沓《かんじき》を踏《ふ》み込《こ》んで……紐《ひも》が切れたんだよ。伝「いろんな事を云《い》つてやアがる、待《ま》て/\、ウームアヽ痛いウム、オイお熊《くま》躯中《からだぢゆう》しびれて……こつちへ入《はい》つて背中《せなか》を二ツ三ツ叩《たゝ》いてくれ。女「何《ど》うしたんだな、しやうがねえな、方々《はう/″\》へ行《い》つて酒《さけ》を飲《の》むからそんなことになるんだな。伝「飲《のみ》やアしねえ、今日《けふ》は治衛門《ぢゑもん》さんのところへ行《い》つても酒《さけ》は飲《の》まなかつた、家《うち》に買つてあるのを知つてゐるから。女「それでも酒《さけ》くさいよ。伝「燗鍋《かんなべ》に玉子酒《たまござけ》があつたからそれを飲《の》んだ。女「エツ、玉子酒《たまござけ》を飲《の》んだの……しやうがねえな、これはいけねえんだよ、お前《まへ》が拵《こし》らへた痳痺薬《しびれぐすり》が入《はい》つてゐるんだよ。伝「ウム、おくまてめえは己《おれ》を殺す了簡《れうけん》か。熊「何《なに》を云《い》ふんだな、さつき身延山《みのぶさん》へお参《まゐ》りに来《き》た人が道に迷つて此処《こゝ》に来《き》たが、それは吉原《よしはら》にゐた時に出た客なんだよ、三|両《りやう》包《つゝ》んで出したが跡《あと》に切餅《きりもち》(二十五|両《りやう》包《づゝみ》)二|俵《へう》位《ぐらゐ》はある様子《やうす》、それで玉子酒《たまござけ》に仕掛《しかけ》をして飲《の》ましたが、その残《のこり》をお前《まへ》が飲《の》んだのさ。これを次《つぎ》の間《ま》で聞いた客は驚《おどろ》いて逃《に》げようとしたが毒がまはつて躯《からだ》が自由になりません。○「太い女だ、ひどい奴《やつ》があるもんだ、どうかしてもう一度|江戸《えど》の土《つち》を踏《ふ》み、女房《にようばう》子《こ》に会《あ》つて死にたいものだ、お祖師様《そしさま》の罰《ばち》でも当《あた》つたのかしら。逃《に》げ様《やう》として躯《からだ》を戸《と》に当《あ》てたから外《はづ》れると戸《と》と共《とも》に庭にころがり落ちたが、○「南無妙法蓮華経《なむめうほふれんげきやう》、妙法蓮華経《めうほふれんげきやう》。とお題目《だいもく》を唱《とな》へながら雪の中に這《は》ひました。その時つい気のついたは小《こ》むろ山《さん》から頂《いたゞ》いて来《き》た毒消《どくけし》の御封《ごふう》、これ幸《さいは》ひと懐中《ふところ》に手を入れましたが包《つゝ》みのまゝ口へ入《い》れて雪をつかんで入《い》れて呑《の》みましたが、毒消《どくけし》の御利益《ごりやく》か、いゝあんばいに躯《からだ》が利《き》いて来《き》ました、斯《か》うなると慾《よく》が出てまた上《あが》つて包《つゝみ》を斜《はす》に背負《せお》ひ道中差《だうちゆうざし》をさして逃《に》げ出しました。女「野郎《やらう》気《き》がついたな、鉄砲《てつぱう》で射殺《ぶちころ》してしまふ。これを聞いていよ/\驚《おどろ》き雪《ゆき》の中《なか》を逃《に》げたがあとからおくまは火縄筒《ひなはづゝ》を持つて追つて来ます。旅の人はうしろをふり向くとチラ/\火が見える。前《まへ》は東海道《とうかいだう》岩淵《いはぶち》へ落《おと》す急流《きふりう》、しかもこゝは釜《かま》が淵《ふち》と申《まう》す難所《なんじよ》でございます。お祖師《そし》が身延《みのぶ》へ参詣《さんけい》に来《き》ても鰍沢《かじかざは》の舟には乗るなとおつしやつた、しかしこゝより外《ほか》に遁《のが》れるところはない鉄砲《てつぱう》で射《ぶ》ち殺されるかそれとも助かるか一かばちか○「南無妙法蓮華経《なむめうほふれんげきやう》」とお題目《だいもく》をとなへながら流れをのぞんで飛び込みました。下につないであつた山筏《やまいかだ》の上へ落ちると、佩《さ》してゐた道中差《だうちゆうざし》がスルリと鞘走《さやばし》つて、それが筏《いかだ》を繋《もや》つた綱《つな》にふれるとプツリと切れて筏《いかだ》
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