ょうせき》和尚様へ上げて下さいまし」
 と、差出すと、良石和尚は白翁堂とは別ならぬ間柄ゆえ、手紙を見て直《すぐ》に萩原を居間へ通せば、和尚は木綿の座蒲団に白衣《はくえ》を着て、其の上に茶色の衣《ころも》を着て、当年五十一歳の名僧、寂寞《じゃくまく》としてちゃんと坐り、中々に道徳いや高く、念仏三昧という有様《ありさま》で、新三郎は自然《ひとりで》に頭が下《さが》る。
良「はい、お前が萩原新三郎さんか」
新「へえ粗忽《そこつ》の浪士萩原新三郎と申します、白翁堂の書面の通り、何《なん》の因果か死霊に悩まされ難渋《なんじゅう》を致しますが、貴僧の御法《ごほう》を以《もっ》て死霊を退散するようにお願い申します」
良「此方《こちら》へ来なさい、お前に死相が出たという書面だが、見てやるから此方へ来なさい、成程死ぬなア近々《きん/\》に死ぬ」
新「何《ど》うかして死なゝいように願います」
良「お前さんの因縁は深しい訳のある因縁じゃが、それをいうても本当にはせまいが、何しろ口惜《くやし》くて祟《たゝ》る幽霊ではなく、只《たゞ》恋しい/\と思う幽霊で、三|世《せ》も四世も前から、ある女がお前を思うて生きか
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