なら斬ってしまいますが、あの若い方はどうも病身のようだから斬れまいねえ」
「ナニあれは剣術を知らないのだろう、侍が剣術を知らなければ腰抜けだ」
などとさゝやく言葉がちら/\若い侍の耳に入るから、グッと込み上げ、癇癖《かんぺき》に障《さわ》り、満面《まんめん》朱《しゅ》を注いだる如くになり、額に青筋を顕《あら》わし、きっと詰め寄り、
侍「是程までにお詫びを申しても御勘弁なさりませぬか」
酔「くどい、見れば立派なお侍、御直参《ごじきさん》か何《いず》れの御藩中《ごはんちゅう》かは知らないが尾羽《おは》打枯《うちか》らした浪人と侮《あなど》り失礼至極、愈々《いよ/\》勘弁がならなければどうする」
と云いさま、ガアッと痰《たん》を彼《か》の若侍の顔に唾《は》き付けました故、流石《さすが》に勘弁強い若侍も、今は早《は》や怒気《どき》一度に面《かお》に顕《あら》われ、
侍「汝《おのれ》下手《したで》に出れば附上《つけあが》り、ます/\募《つの》る罵詈暴行《ばりぼうこう》、武士たるものゝ面上《めんじょう》に痰を唾き付けるとは不届《ふとゞき》な奴、勘弁が出来なければ斯《こ》うする」
といいながら
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