の水道端だから毎日でも往来《ゆきき》の出来る所、何も気遣《きづか》う事はない、手前は気強いようでもよく泣くなア、男子《おとこ》たるべきものがそんな意気地《いくじ》がない魂ではいかんぞ」
孝「殿様|私《わたくし》は御当家様へ三月五日に御奉公に参りましたが、外《ほか》に兄弟も親もない奴だと仰しゃって目を掛けて下さる、其の御恩の程は私は死んでも忘れは致しませんが、殿様はお酒を召上ると正体なく御寝《げし》なさる、又召上らなければ御寝なられません故、少し上《あが》って下さい、余りよく御寝なると、どんな英雄でも、随分悪者の為に如何《いか》なる目に逢うかも知れません、殿様決して御油断はなりません、私はそれが心配でなりません、それから藤田様から参りましたお薬は、どうか隔日《いちにちおき》に召上って下さい」
飯「なんだナ、遠国《えんごく》へでも行《ゆ》くような事を云って、そんな事は云わんでもいゝわ」

        八

 萩原の家《うち》で女の声がするから、伴藏が覗《のぞ》いて恟《びっく》りし、ぞっと足元から総毛立《そうけだ》ちまして、物をも云わず勇齋の所へ駆込《かけこ》もうとしましたが、怖いから先
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