付けるなどとは不忠者め、是が一人前《ひとりまえ》の侍なれば再び門を跨《また》いで邸《やしき》へ帰る事は出来ぬぞ」
孝「喧嘩を致したのではありません、お使い先で宮邊《みやべ》様の長家下《ながやした》を通りますと、屋根から瓦《かわら》が落ちて額に中《あた》り、斯様《かよう》に怪我《けが》を致しました、悪い瓦でございます、お目障《めざわ》りに成って誠に恐入《おそれい》ります」
飯「屋根瓦の傷ではない様だ、まアどうでもいゝが、併《しか》し必ず喧嘩などをして疵を受けてはならんぞ、手前は真直《まっすぐ》な気性だが、向うが曲って来れば真直に行《ゆ》く事は出来まい、それだから其処《そこ》を避《よ》けて通るようにすると広い所へ出られるものだ、何《なん》でも堪忍《かんにん》をしなければいけんぞ、堪忍の忍《にん》の字は刃《やいば》の下に心を書く、一ツ動けばむねを斬るごとく何でも我慢《がまん》が肝心《かんじん》だぞよ、奉公するからは主君へ上げ置いた身体、主人へ上げると心得て忠義を尽《つく》すのだ、決して軽挙《かるはずみ》の事をするな、曲った奴には逆《さから》うなよ」
という意見が一々胸に堪《こた》えて、孝助
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