す」
 と云ったが、額の疵《きず》があるから出られません。けれども忠義の人ゆえ、殿様の御用と聞いて額の疵も打忘《うちわす》れて出て参りました。
飯「孝助|此処《こゝ》へ来い/\、皆あちらへ参れ、誰《たれ》もまいる事はならんぞ」
孝「大分《だいぶ》お熱うございます、殿さまは毎日の御番疲れもありは致すまいかと心配をいたして居ります」
飯「其方《そち》は加減がわるいと云って引籠《ひきこも》っているそうだが、どうじゃナ、手前に少し話したいことがあって呼んだのだ、外《ほか》の事でもないが、水道端《すいどうばた》の相川におとくという今年十八になる娘があるナ、器量も人並に勝《すぐ》れ殊《こと》に孝行もので、あれが手前の忠義の志に感服したと見えて、手前を思い詰め、煩《わずら》っているくらいな訳で、是非手前を養子にしたいとの頼みだから行ってやれ」
 と孝助の顔を見ると、額に傷があるから、
飯「孝助どう致した、額の疵《きず》は」
孝「へい/\」
飯「喧嘩《けんか》でもしたか、不埓《ふらち》な奴だ、出世前の大事の身体、殊に面体《めんてい》に疵を受けているではないか、私《わたくし》の遺恨《いこん》で身体に疵を
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