、私《わたくし》も折々《おり/\》は宅《うち》の家来|善藏《ぜんぞう》などに、飯島様の孝助殿を見習えと叱り付けますものだから、台所のおさんまでが孝助さんは男振《おとこぶり》もよし人柄もよし、優しいと誉め、乳母《おんば》までが彼是《かれこれ》と誉めはやすものだから、娘も、殿様お笑い下さるな、私は汗の出るほど耻入《はじい》ります、実は疾《と》くより娘があの孝助殿を見染《みそ》め、恋煩《こいわずら》いをして居ります、誠に面目《めんぼく》ない、それをサ婆《ばゞ》アにもいわないで、漸《ようや》く昨夜になって申しましたから、なぜ早く云わん、一|合《ごう》取っても武士の娘という事が浄瑠璃本《じょうるりぼん》にもあるではないか、侍の娘が男を見染めて恋煩いをするなどとは不孝ものめ、仮令《たとい》一人の娘でも手打にする処《ところ》だが、併《しか》し紺看板《こんかんばん》に真鍮巻《しんちゅうまき》の木刀を差した見る影もない者に惚れたというのは、孝助殿の男振の好《い》いのに惚れたか、又は姿の好いのに惚れ込んだかと難じてやりました、そうすると娘がお父《とっ》さま実は孝助殿の男振にも姿にも惚れたのではございません
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