ばいゝに、聞こうと思っているうちに行って仕舞った、いけないねえ、併《しか》しお嬢は全く己《おれ》に惚れ込んで己を思って死んだのか」
 と思うとカッと逆上《のぼ》せて来て、根が人がよいから猶々《なお/\》気が欝々《うつ/\》して病気が重くなり、それからはお嬢の俗名《ぞくみょう》を書いて仏壇に備え、毎日々々念仏三|昧《まい》で暮しましたが、今日しも盆の十三日なれば精霊棚《しょうりょうだな》の支度《したく》などを致してしまい、縁側へちょっと敷物を敷き、蚊遣《かやり》を薫《くゆ》らして、新三郎は白地の浴衣《ゆかた》を着、深草形《ふかくさがた》の団扇《うちわ》を片手に蚊を払いながら、冴《さ》え渡る十三日の月を眺めていますと、カラコン/\と珍らしく下駄の音をさせて生垣《いけがき》の外を通るものがあるから、不図見れば、先《さ》きへ立ったのは年頃三十位の大丸髷《おおまるまげ》の人柄のよい年増《としま》にて、其の頃|流行《はや》った縮緬細工《ちりめんざいく》の牡丹《ぼたん》芍薬《しゃくやく》などの花の附いた灯籠を提《さ》げ、其の後《あと》から十七八とも思われる娘が、髪は文金《ぶんきん》の高髷《たかまげ》
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