尺戸《さんじゃくど》を開けて置いて宜《よろ》しゅうございますか、庭口の戸が開いていると犬が這入って来ます、何《なん》でも犬畜生の恩も義理も知らん奴が、殿様の大切にして入らっしゃるものをむしゃ/\喰っていますから、私《わたくし》は夜通し此処《こゝ》に張番《はりばん》をしています、此所《こゝ》に下駄が脱いでありますから、何でも人間が這入ったに違いはありません」
國「そうサ、先刻《さっき》お隣の源さまが入らっしゃったのサ」
孝「へえ、源さまが何《なに》御用で入らっしゃいました」
國「何《なん》の御用でも宜《よ》いじゃアないか、草履取の身の上でお前は御門さえ守っていればよいのだよ」
孝「毎月《まいげつ》二十一日は殿様お泊番の事は、お隣の御次男様もよく御存じでいらっしゃいますに、殿様のお留守の処へお出《いで》に成って、御用が足りるとはこりゃア変でございますな」
國「何が変だえ、殿様に御用があるのではない」
孝「殿様に御用ではなく、あなたに内証《ないしょう》の御用でしょう」
國「おや/\お前はそんな事を言って私を疑ぐるね」
孝「何も疑ぐりはしませんのに、疑ぐると思うのが余程《よっぽど》おかしい、夜
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