の蓋ばかりだから、ハッとばかりに奇異《きたい》の想《おもい》を致し、何《ど》うして此の蓋が我手《わがて》にある事かと恟《びっく》り致しました。

        五

 話|替《かわ》って、飯島平左衞門は凛々《りゝ》しい智者《ちえしゃ》にて諸芸に達し、とりわけ剣術は真影流の極意《ごくい》を極《きわ》めました名人にて、お齢《とし》四十ぐらい、人並《ひとなみ》に勝《すぐ》れたお方なれども、妾の國というが心得違いの奴にて、内々《ない/\》隣家《となり》の次男|源次郎《げんじろう》を引込《ひきこ》み楽しんで居りました。お國は人目を憚《はゞか》り庭口の開《ひら》き戸を明け置き、此処《こゝ》より源次郎を忍ばせる趣向《しゅこう》で、殿様のお泊番《とまりばん》の時には此処から忍んで来るのだが、奥向きの切盛《きりもり》は万事妾の國がする事ゆえ、誰《たれ》も此の様子を知る者は絶えてありません。今日しも七月二十一日殿様はお泊番の事ゆえ、源次郎を忍ばせようとの下心《したごゝろ》で、庭下駄を彼《か》の開き戸の側に並べ置き、
國「今日は熱くって堪《たま》らないから、風を入れないでは寝られない、雨戸を少しすかして置
前へ 次へ
全308ページ中42ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング