大層|魘《うな》されていますね、恐《おそろ》しい声をして恟《びっく》りしました、風邪を引くといけませんよ」
 と云われて新三郎はやっと目を覚《さま》し、ハアと溜息《ためいき》をついて居るから。
伴「何《ど》うなさいましたか」
新「伴藏や己《おれ》の首が落ちては居ないか」
 と問われて、
伴「そうですねえ、船舷《ふなべり》で煙管《きせる》を叩くと能《よ》く雁首《がんくび》が川の中へ落っこちて困るもんですねえ」
新「そうじゃアない、己の首が落ちはしないかという事よ、何処《どこ》にも疵《きず》が付いてはいないか」
伴「何を御冗談を仰《おっ》しゃる、疵も何も有りは致しません」
 と云う。新三郎はお露に何《ど》うにもして逢いたいと思い続けているものだから、其の事を夢に見てビッショリ汗をかき、辻占《つじうら》が悪いから早く帰ろうと思い
「伴藏早く帰ろう」
 と船を急がして帰りまして、船が着いたから上《あが》ろうとすると。
伴「旦那こゝにこんな物が落ちて居ります」
 と差出《さしいだ》すを新三郎が手に取上《とりあ》げて見ますれば、飯島の娘と夢のうちにて取交《とりかわ》した、秋野に虫の模様の付いた香箱
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